最近は年上の姉さん女房が増えていますが、彼女たちのカウンセリングをしていると、姉さん女房タイプが陥りやすい罠が見えてきます。
以前、カウンセリングに来てくださった祥子さん(仮名 40代前半)はご主人よりも10歳年上の姉さん女房でした。付き合っていたころは良かったらしいのですが、結婚して以来、ご主人に対する不満がいっぱい出てきたとのことでした。
たとえば、頼りない、考え方が違う、稼ぎが少ないのにお小遣いをたくさんほしがる。私の貯金は自分のものだと思っているなどなど、いろいろな不満が出てきました。特にお金についてはたくさんの不満が出てきていました。
稼ぎがあまりないくせに、遊びやパチンコや飲み代をほしがる。彼は遊びにお金を使いたがる。でも、私は将来のことを考えて貯蓄したい。
これは、典型的な男女の違い(または、男女関係におけるポジティブ派とネガティブ派の違い)のひとつです。
話を聞けば聞くほど、どうも、ご主人が依存側で奥さん側が自立しているのがはっきりとわかってくるのです。(年齢差を見てもわかるのですが・・・)
一方、ご主人はとても甘えたのようで、一緒にお風呂に入りたがったり、奥さんに褒めてほしかったり、甘えさせてほしかったり、会社に行ってからも朝、昼、夜と最低3回は電話で話をしたがったり、かなり「触覚派」タイプの愛情表現が好きな方で、奥さんとのつながりを求めてくるとのことでした。
初めはなんとかご主人の要望にも応えていたのですが、彼女の欲求にぜんぜん応えてくれない夫に対してだんだんと、腹立たしく、うっとうしくなってきたようです。そして、
「もう嫌だ。なんで、そんなことをしないといけないの?
と思ってカウンセリングに来られたそうです。
「大きな子供が一人増えたみたいな感じじゃないですか?」
というと
「本当にそのとおりです」
と彼女は答えました。
結婚して10年、20年経ったような方の中には、この話を聞いて、
「うらやましい。なんていい旦那さんなの。うちの主人につめの垢をせんじて飲ませたい!」
という方もいるかもしれません。でも、彼女にとっては嫌だったんです。
大抵の場合、男女関係で自立側の立場を取るのは、過去に依存的な立場で男女関係を持ったときにとんでもない痛い目にあったり、振り回されたりして傷ついた経験をした方です。もう二度と傷つかないために、振り回されない自立側、主導権を握ろうとするからです。そして、彼女の場合は、彼女が自立側、夫が依存側でした。
そして、二人がはまっていた罠は、どちらが先に自分のニーズをかなえてもらうのか?という競争だったのです。こういう場合は、どちが先でもいいのですが、一方のパートナーのニーズをかなえてあげると相手は満足して、今度はあなたのニーズを満たしてくれようとします。でも、多くの方はこれを信じることができません。その結果、パートナーへの期待を捨てて、別の男性や女性を求め始めるのです。これが「本当に欲しい物が角まできたとき誘惑にひっかる・・・」という典型例です。
そして、彼女は離婚を考えていました。
◎無意識のストーリー
ご主人のお話を聞くと、彼は一人っ子で母子家庭で育ったようです。昔、父親がいたころは、母親に暴力を振るっていて、それが原因で両親は離婚したというのです。そのような両親の夫婦関係を見て子供が育つと、特に男の子の場合は、
「父親という悪い人間に、抑圧され支配され、犠牲になっている、可愛そうな母親(女性)を救いたい、助けたい!」
という欲求を持ちます。これはハリウッド映画の典型的なストーリーでもありますが、ヒーロー・ストーリーを無意識の中に作っていくのです。
しかし、子供時代はもちろん非力ですから大人である父親に勝つことはできません。そこで子供が感じるのは「無力感」です。自分には母親を救うだけの十分な力がない。無力だ。非力だという感覚です。
そうした心の傷を抱えながら彼はもちろん母親思いの良い息子になっていったのです。
しかし、母親がこのような厳しい状態で生活をしていると当然のことながら、彼は母親に甘えることはできません。
「父親の暴力に耐えることだけでも大変なのに、子供の自分はできるだけ我慢して、甘えないようにしないと。お母さんを助けないと」
と思い、彼は早くから自立のプロセスを歩んできたのです。そして、大人になった彼は、出会った彼女に熱烈アタックをしたのです。
一方、彼女は今のご主人に出会う前に大きな失恋があり、男性に対する失望感、
「男性に期待したって幸せになんてなれない。裏切られるだけ・・・」
という感覚を持っていました。だから、彼がアプローチをしてきても、はじめは相手にしていなかったのです。しかし、ご主人のアプローチは普通の男性以上のマメさと情熱でした。
その彼からのアプローチで、固く閉ざされていた彼女の心はだんだんと開いていったのです。「この人ならいいかな」と。
そして、彼と付き合いだしたのです。しかし、結婚を前にする段階になると、だんだと彼が彼女に対してとても依存的で、甘えたな人になってきたのです。
◎男女関係では、親子関係で抑圧してきたニーズが噴出する
ご主人は子供時代、母親へ甘えたいという気持ちをずっと抑圧してきたのです。だから、彼は結婚が決まったときに、奥さんへの安心感がでて、ずっと我慢してきたニーズが奥さんに出たのです。
「僕を褒めてほしい、認めてほしい。可愛がってほしい。抱きしめてほしい。よしよししてほしい」
奥さんにとっては意外でした。
「そんな男性と結婚したつもりはないのに!こんなはずじゃなかったのに!」
そして、そんなふうに甘えてくるご主人に対して、嫌悪感や抵抗感が出てきました。ご主人が子供っぽく見えて、男性として見れなくなってきたのです。
ご主人は結婚して「安心、甘えたい。これまで頑張ってきたことをもっと褒めてくれるだろう。優しくしてくれるだろう」
彼女は結婚して「これからも私にマメに甘えさせてくれる」
二人の気持ちが平行線で交じり合うことがありませんでした。
彼女は彼のニーズに抵抗感を覚え、付き合っているときにはスキンシップをしてもまったく抵抗がなかったのに、結婚してからはそれが嫌になってきたのです。
すると、ご主人から「寂しい」と言われてしまったのです。
「どうして、付き合っていたときは良かったのに、今は嫌なのかわからないんです・・・」
彼女は自分でもなぜそうなったのかわからずに困惑していたのですが、夫の気持ちに応えていない罪悪感が付き合っている当初から少しずつあったのです。
「彼のほうが私ことを愛してくれている。私のほうが愛情が少ないんじゃないかしら・・・」
この罪悪感が少しずつつもった結果、彼女は補償行為、夫の世話をいろいろと面倒を見てきたのです。
でも、補償行為から為された愛情は疲れるだけで報酬はありません。彼から「今度はこれ」「じゃ、次はこれ」と要求されるたびに、だんだんと疲れてきて、彼に対する失望感や怒りになったのです。そして、
「いつまで私は我慢すればいいの?」
「いつまでやれば、彼は気づいて大人になってくれるの!」
という夫への不満となっていたのです。でも、その裏側にはご主人をもっと好きになる恐れが隠れていたのです。
◎パートナーが依存的なのは、あなたが自分の依存を抑圧しているから!?
彼女は彼が甘えたで依存的だとずっと思っていました。そして、そのせいで「私が甘えられないのよ!」「甘えてないでしっかりしてよ!」と思っていたのですが、セラピーを続けていくうちに、実は、彼女のほうに依存的になる恐れがあったことに気づきました。
ご主人と結婚する前の失恋で傷ついたハートの傷がまだ癒えていなかったのです。そして、「もう二度と傷つきたくない!」という想いが、夫に対して依存的になることを、甘えることを禁止していたのです。
そういった話を一通りした後に
「あなたの弱さが彼の強さになるんですよ」
というと、
「実は、彼もそういっているんですよ」
と彼女は答えてくれました。でも、彼女は自分が甘えたになるとか、弱くなるというのがどうしても許せなかったのです。過去の男女関係で受けた傷が、心の中に残っており、いまだに怖がっていたからです。
「ご主人のようなタイプの男性は簡単なんですよ」
「お金をかけなくても言葉や愛情をかけるだけで満足して、幸せになってくれるんですよ。そんな簡単なご主人は珍しいですよ」
「・・・ 本人もそう言っています ・・・」
「ご主人を絶望の淵に叩き込むのはとっても簡単ですよ」
「あなたが不幸せで、楽しくなさそうで、落ち込んでいたらいいんです。そしたら、彼はあなたを幸せにできていないという無力感に打ちのめされます。これは、彼が幼児期にずーっとお母さんに対して感じていた感情なんです」
「だから、彼にとって一番嫌なことは、お母さんを助けられなかったように、女性を助けられない、幸せにできない男なんだと痛感させられることです」
「そしたら、簡単に離婚できますよ」
「でも、僕は思うんですが、彼に出会ったとき、”彼を一人前にしたい”なんて思っちゃったんじゃないですか?」
「え!? そういえば、昔そう思ったことがあるんです。なんで、わかるんですか?」
彼女は不思議な顔で、そう聞いてきたのです。
◎母性の強い女性の過去には傷ついた男性がいる
「それはね、あなたが感覚的に、彼の中にある痛みや孤独感を感じるからです」
「彼のようなタイプの男性を選ぶ女性は母性本能が豊かで、そこを刺激されるんですよ。そういう方には家族のなかに、傷ついた男性がいることが多いのです」
「たとえば、仕事で失敗した父親。家に居場所のない父親。逆に横暴だったり、暴力的な男性など、無価値感や罪悪感が強い男性が近くにいることが多いんです」
「子供は、思考は発達していませんが、感覚は敏感で、純粋なので、そういう人を見ると、”どうしてこの人はこんな振る舞いをするんだろう?せっかくいい人なのに・・・”と思うんですよ」
「そして、そんな男性、父親や兄弟のことが多いですが、彼らを助けたいと思うんです。でも、子供って非力でしょう?」
「はい」
「すると、そこで”助けたかったのに助けられなかった・・・”という罪悪感や無価値感を持つんです。そして、これが人生のやり残した宿題となって、大人になってから男女関係や仕事上、友人関係など、別の人間関係という形をとって表れるのです」
「まるで、昔できなかったことを今果たしたいという感じですね」
「そういわれて、気づきましたけど、確かに私の父親は物静かで、あまり話さない人でした。家に居場所がなかったんです・・・」
「母親がいろいろ父親に言うんですが、母親が言っても父親は”うん”とか”ああ”しか言わなくて、あまりちゃんと答えてなかったです。そして、母親の愚痴が多くなるんです」
「だとしたら、”役に立たない男”という意味ではあなたもお母さんも似たようなパートナーを持っているかもしれませんね」
「・・・ そうかもしれません ・・・・」
「そんなお母さんを見て、どんなふうに感じていたんですか?」
「もう少し優しくしてあげてたらいいのにって思っていました。あまり口に出して言う人じゃなかったんですが、私は、なんとなく父親の気持ちがわかってたんです」
「なるほど。でも、あまりお父さんの力にはなれなかった」
「そうですね。結局、母親の不満に負けてしまって、父親をかばうことはできなかったですね」
「すると、そこではお父さんに対して、十分にできていない。愛してあげられないという感覚が残りませんか?」
「はい」
「これが、今のご主人に対して投影されているんですよ」
「彼を一人前にすることで、自分の無価値感、これはお父さんとの関係から始まったと思いますが、この無価値感を癒せるように感じるからです」
「お父さんに対してできなかったことが、彼を通して実現できるような感覚がするんです。これは無意識ですけどね」
「そういう意味では、お二人は実は、過去からずっと持ってきたお互いの課題、テーマを癒すために出会ったパートナーなんですよ」
「ご主人にとってもそうなんです。あなたを幸せにすることで、母親に対してできなかったこと、幸せにしたかった、守りたかったという夢を実現できるんです」
すると、彼女は何年か前に彼と出会い、結婚を決めたとき、彼を愛そう、彼を一人前の男性にしてあげたいと思ったときに記憶と気持ちを思い出したのです。そして、彼女のほほを涙が伝いました。
「そうでした。私はそう思ったんです。すっかりあのときの気持ちを忘れていました。主人にしっかりしてもらって、私を幸せにしてほしいとばかり思っていましたが、以前は私が主人を幸せにしてあげようって思ってました」
「それに、主人にもそんな痛みがあったんですね。もし、私が彼の愛情を受け取ってあげることができたとしたら、彼も過去の傷が癒えるんでしょうか?」
「ええ、男女関係というのは、お互いに過去に負った傷を癒しあうプロセスなんです。お互いに愛を与え合い、受け取りあうことでお互いに癒しあうことができるんですよ」
「大切な気持ちを思い出させてくれてありがとうございました。これからその気持ちを忘れないようにします」
そういって彼女は失った大切な宝物がもう一度戻ってきたような、嬉しそうな顔で帰っていきました。
◎彼女からのメール
その後、しばらくして彼女から一通のメールが届きました。そこにはこんなふうに書かれていました。
カウンセリングを受けて、昔の気持ちを思い出してから、夫に対する愛しい気持ちが出てきました。それから、彼の望むすべてではありませんが、答えてあげるととても喜んでくれるんです。
きっと、前は嫌々やっていたけれど、今は笑顔でできてるからでしょうね。そして、彼もすごくよくしてくれるようになったんです。
「主人がお金を欲しがる」と不満に思っていましたが、本当は私が愛情を与えていなかったから、彼は寂しさを感じて、彼はその代わりにお金や用事やお世話を望んでいたのかもしれません。今では、そんな無理なことは言わなくなりました。
私の気持ちや感じ方が変われば相手が変わるってこういうことなんですね。前は信じられなかったけど、こんなにも変わるんだと今は実感しています。ありがとうございました。お互いに癒しあえる夫婦って素敵ですよね。それを目標に、これから夫婦仲良くやっていきたいと思います。
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